三浦しをん 「愛なき世界」

 今年に入って4冊目を手にした。

 「愛なき世界」 三浦しをん

 三浦さんの本は何冊も何冊も読んでいて、まぁ、流れというかリズムというか、その辺は分かっているつもりだった。しかし、本作は果敢にも植物研究の世界にスポットを当てたものの、いつものリズム感はいまひとつだったような気がする。恐らく著者にとって扱うこと自体がチャンレジの領域であったであろう植物研究の世界。読者の理解を得ようと研究テーマに関する説明が少々重たく繰り返され、しかもリズムが悪いものだから読むのが難解に感じた。僕の場合、研究テーマ自体に興味が湧かないというか、今一つ面白いテーマに感じなかったのもある。

 登場人物たちは、三浦さんが描くいつもの素直で明るいキャラクターや一風変わっているが根はすごくピュアという人物が集結していて、人間模様、心模様は大変楽しい作品に仕上がっていると思う。しかし、それでも途中途中の研究説明の段で、本書を放り投げてしまう人もいるような気がする。


 理科系離れ

 理科系タイプは何ら苦なく読める作品だと思う。だけど、世の中理科系タイプは絶対数では小さいと思うので、世間一般にバカ売れするものではない、と感じた。残念ながら、人にはお勧めしない。特に読書にあまり親しんでない人には、このストーリーは読了が難しいと思う。

 それでも、僕は面白く読んだ。

 面倒な説明部分はすっ飛ばしちゃえば良いしね。
 さっきこの説明あったよね、というところも飛ばしちゃえば良い。
 よって、こういう作品こそ、スピード感重視であまり頭に入らなくてもサクサク進めちゃったほうが良い。


★★★
 センセーショナルなタイトル
 「愛なき世界」

 冒頭、定食屋の改装を提案する弟子を厳しくたしなめる師匠。そんなやり取りから物語はスタートする。
 ネタバレにならないから書いてしまうが、この冒頭は物語全体をきれいにまとめたもの。最後まで読んで、冒頭に戻ると、「ははーん、なるほど、こう来たか!」と感じるはず。

 僕にとっては、どうみても面白くない基礎研究にすべての愛情、もっと言うと人生をかけることが信じられないので、どうも感情移入がしづらいのだが、ぐっとこらえて読み進む。救いは定食屋の弟子。彼はピュアだし、ストレート。自分の考えをストレートに言うが、その発言のどれもこれもが他人の気付きを促すもの。誰をも傷つけずに主人公の女性研究者の気付きやエネルギーを与える言葉たち。

 途中、ぐっとくるところもあるし、彼の存在が物語を面白くしているのは間違いない。

 食べるシーンの多さ
 食べるシーンが随所に散りばめられている。朝食、昼食、夕食。食べるシーンがあちらこちらに使われる。
 スウィートポテトにフライドポテト、スパゲッティにかつ丼。
 食=生を意識させる仕掛けと考えるのが普通だが、まさしく、食=性、と捉えるのも普通。性は愛だからね。
 loveって確か、向こうでは「営み」も入っての単語だったよね。


 光を食べてる
 現代の経済活動だろうが何だろうが、偉そうなことを誰かが言ったって、太陽が無限のエネルギーを供給しているから世界は成り立っているわけだ。確かにものすごいでかい範囲で考えればエネルギー量は不変、つまりエネルギーの保存則は成り立つが人間の一生は大宇宙の時間軸に比べて極めて短い時間でしょ。そんな鼻くそみたいな時間だけここに存在している我々にとっては、供給エネルギーは無限とイコールになる。

 著者は「光」という言葉を使った。



★★★
 本質に開眼。

 定食屋の師匠は物事の「本質」を見抜いていることがゆくゆく分かる。
 本書で扱っている大きなテーマはこの「本質」ということだ。たぶん、それで合っている。そう感じる。

 だから、僕は冒頭のシーンを振り返るわけだ。

 定食屋が提供する「本質」とは・・・
 答えはそこに書いてある。

 研究室の面々もそこに通って食事をとる理由は同じだ。



愛なき世界 (単行本)
中央公論新社
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